たった9か月の営業期間だったにも関わず、ゴエミヨ掲載やTERIYAKI’s BEST RESTAURANTでSILVERを獲得するなど、食通からも支持を集めた札幌の「beija Flor(ベイジャフロール)」。
彼の美しい盛り付けと繊細な味わいの料理は評判を呼び、全国から食通が足を運ぶ人気店となりましたが、惜しくも閉店しました。一年以上の充電期間を経て、佐藤幸大シェフによる「amorphous(アモルファス)」が2023年8月15日にオープンする。
今回はそんな謎多き、佐藤幸大シェフの素顔に迫るTERIYAKIインタビュー。
――シェフになるきっかけは何だったんですか?
最初はバスケットボールのプロを目指そうとしましたが、そもそも日本にはプロリーグが存在しないことを知り、そこから格闘家になろうとしました。一年ちょっとでスパーリングパートナーになった頃、横浜で当時世界三位の山本KIDさんとスパーリングをやったことがあります。そのスパーリングの段階でもう生き物としての違いや格の違いを実感して格闘技はあきらめることにしました(笑)。
そんな時、カプリチョーザの「ワタリガニのトマトクリームスパゲッティ」を食べた時に、世の中にこんなに美味しいものが存在するんだと衝撃を受けました。それがイタリア料理に目覚めたきっかけでした。
どうせやるなら一番いい店で修行しようと思って当時、〇〇さんが新たにオープンした店に早速食べに行ったら、そこのポルチーニ茸がかかったフィレ肉に衝撃を受けて、その次の日に「働かせてください」って頼みに行きました。それが料理人としてのスタートでした。
――イタリアでの修行はいかがでしたか?またそこで得たものは?
イタリアでの修行期間はトータルで約4年です。最初紹介してもらったレストランに行ったんですが、イタリアって一つ星のレストランって創作的でそこそこ面白いんです。けど二つ星になると酷いレベルなんです。三つ星になるとグレードが一気に上がります。そこでどうせなら一番の店に行ってみようと思って、今もあるんですが、イタリアの有名シェフの元で働かせてもらうことになりました。
僕自身、いままでは「シェフ」というものは「プレイヤーとして凄い人」っていう認識だったんですが、そこのシェフは「マネージャー」としても一流でした。僕らみたいな技術はあるけど異質な人っているじゃないですか。自己主張の強い人とかがいると普通はチームとしてまとまらないと思うんですが、それをまとめる力は凄いなと思いました。
そのレストランのサービスも日本のサービスとは全然違っていて、ウィットに溢れていました。例えば、基本的に皿の上を作りこんで運んでいくんですが、ある時はサービスマンから「皿の上にソースだけひいて」と言われました。どうするのかな?と思って見てたら、そのお皿だけ出して「あ、すいません。お肉乗せるの忘れちゃいました」って(笑)。でもデクパージュ(お客さんの前で肉や魚、果物などを切り分けるサービス)の基本的技術はあるからそういうことを即興でやるっていう。そういった急遽決まる演出なんかも凄く刺激になりましたね。
こういういうイタリアでの経験からですかね。僕は料理をどんどん変えたりとか、お客様から「このお皿凄くいいね」って言われたらやめてしまうんです。「未完成」である方が僕は魅力的な気がするんです。完成されているものを作り続けても1mm、2mmの差だけで、それって自己満足でしかないと思うんですよね。未完成をいっぱい出していく方が楽しいですし、レストランとしてはこういうのもありだなってイタリアで学びましたね。
――帰国した後、ご自身のお店を持つまでの状況を教えてください。
3.11の大震災があった後の5月に帰国し、それからは地元の札幌で色んな店で働いてみました。その頃、北海道では「イタリア料理」って言うと「トマトとバジルとモッツァレラチーズが乗ってたらイタリア料理」って認識される様な時代でした。その時に僕は遠心分離機を使ったり、ガストロバックを使ったりして料理をしていて、かなりギャップを感じていました。
ちょうどその頃ぐらいに北海道にはじめてミシュランがきたんです。それをきっかけにフランス料理にハマり、このままフランス料理でもいいかなと思ったら、今度は鮨に目覚めて、そして中国料理に目覚めて(笑)。
小遣いもたまったんでそろそろ自分の店をはじめようと思って「アンティーカ トラットリーア フォルトゥーナ グランデ」というイタリア料理屋をオープンさせました。イタリアではエミリア=ロマーニャ州にいたのでエミリア=ロマーニャ州の郷土料理だけを出すトラットリアです。3年ぐらいやったんですがこれが全然お客さん来なくて(笑)。自分の料理が一般的な味覚からはかけ離れていたんだと思います。でも、いま思えばあの時間が良かったのかもしれません。自分で料理を作って自分で食べるわけです。そりゃ料理も上手くなります(笑)。
だけど知り合いの鮨職人とかが少しづつお客さんを紹介してくださったりとかで徐々に知る人ぞ知る存在になっていきました。そもそも「トラットリア(気楽に入れる大衆向きの小さなイタリアレストラン)」のはずなのに、メニューは50種類以上もありました。ある時、「コース一本で好きに料理をつくった方がいいんじゃない?」って言われて、それから同じ場所でちょっとだけ改装して4席だけのレストランに作り替えたら、次第に全国からお客さんがやってくるようになったんです。
だけど全てワンオペ営業だったんで徐々に疲労が蓄積していって、ついに仕込み中に倒れてしまいました。「摂氏1℃何時間かけて上げていったらいきたいとこにいくのか?」みたいなことずっと一人でやってて。こだわり過ぎるワンオペがたたって、精神的に壊れちゃったんです。
このままじゃまずいということで、1年間仕事をやめて料理から離れることにしました。
――「beija Flor(ベイジャフロール)」が始動して、9か月で閉店になった理由は何ですか?
出資してくれる人も見つかってもうちょっと規模の大きいレストランをやろうと思ったんですが、意見が合わずに空中分解してしまいました。そこで少ない人数でやろうということで当時の「beija Flor」の久野と二人で、前の店を手直しして再スタートをきりました。これが「beija Flor」の始まりです。ありがたいことにすぐにゴエミヨとれたり、TERIYAKI’s BEST RESTAURANTでSILVERを獲得したり、色々と世間から評価していただきました。
閉店の理由は2人の方向性の違いです。サービスの久野は凄く優秀な人間でお互い嫌いということはありません。僕はゴエミヨとれたり、食べログのトップ1000に入ろうがどうでもよかったんです。僕が目指しているのは世界一位だったんで、もちろん世間からの評価は嬉しかったですけど、あくまで通過点に過ぎないと思っていました。だけど彼は違いました。2人の間でズレが少しづつ生じてきてしまいました。
僕は星を取る恐怖や緊張感がありました。三つ星で働いた時も、自分のミスで2つ星に落ちてしまうかもしれない。その辺の意識の違い、そして何より僕が「世界一のレストランを作る」という気持ちが強すぎたのかもしれません。
――2023年8月、「amorphous (アモルファス)」がオープンします。今度は人数が増え、チームでの営業となりますがどの様な気持ちで臨まれますか?
目標に向かって直進的すぎると良くないなと前回で学びました。メンバーの特性もあるだろうし、彼らのその能力値の中で何ができるかを見つけていって伸ばしてあげることが大事なんだと思います。
やっぱり一人でできることには限界があります。緻密な作業をするにしてもスタッフの数は多い方がいいし、一つの物を多角的な角度でみたり、レストランとしての幅が広がるなと思ったんです。「beija Flor」では4席2回転で1日8名にしか料理を出すことができませんでした。「世の中変えたい」って言ってもこれじゃどう考えても世の中変わらんと(笑)。
あえて料理は決めてません。頭のなかで思い描いて作る料理なんて大したことがないです。生産者から食材を集めて「何作ろう」って作る料理が一番うまいと思います。
この「何も決めずに」ってのも「amorphous(アモルファス)」の店名とリンクします。「イノベーティブフュージョン」という言葉も嫌いなんです。その言葉がカテゴライズされてるものを当てはまってしまうとそれを作らないといけなくなってしまうじゃないですか。自分の調子と食材のテンションが合えば、極端な話、鮨を一貫出しても、ネパールカレーを出してもいいと思うんです。だから結晶化されていないという意味でこの名前を付けました。
いかがでしたでしょうか?2023年8月オープンの前に7月にショートコースとしてポップアップイベントを行いますので是非そちらも予約してみてはいかがでしょうか?
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