東京・西麻布に拠点を構え、世界中の美食家を魅了する「WAGYUMAFIA」。その地で、食とコーヒーの新たな可能性を探るユニークなイベントが定期的に開催されているのをご存知でしょうか。その名も「妄想喫茶」。

手がけるのは、WAGYUMAFIA代表であり、和牛の探求者として名高い浜田寿人氏と、2014年にアジア人として初めてワールドバリスタチャンピオンシップの頂点に立った井崎英典氏。日本の喫茶店文化への深い愛情を持つ二人が、「理想の喫茶店」をテーマに、それぞれの専門性を掛け合わせて創り上げる、まさに”妄想”を形にしたプロジェクトです。

この「妄想喫茶」は、昼と夜で異なるメニュー構成と雰囲気を楽しめるのが特徴。昼の部では、WAGYUMAFIAならではの和牛を贅沢に使用したスパイスカレーと、井崎氏がゲスト一人ひとりに合わせて淹れるコーヒーのマリアージュが楽しめるのだとか。

今回、筆者は幸運にも、ステーキがメインとなる「夜の部」に参加する機会を得ました。その濃密な食体験をレポートします。

炎と肉が舞うカウンター、ジョスパーオーブンが放つ魔力

陽が落ち、落ち着いた照明が灯る店内。夜の部の主役は、なんといっても浜田氏が焼き上げるステーキです。カウンターの目の前には、スペイン製の高性能チャコールオーブン「ジョスパー」が鎮座。このオーブンは密閉構造と高温の炭火により、食材の水分や香りを保ちながら、凝縮された旨味を引き出すことができるといいます。

この夜、提供されたのは「ハラミ」。ゲストの好みに合わせてボリュームを調整してくれる点も嬉しい配慮です。浜田氏自らがジョスパーオーブンを巧みに操り、ベストなタイミングで肉に火を入れていきます。立ち上る香ばしい煙と、ジュージューと肉が焼ける音に、期待感は否応なく高まります。

焼き上げられたハラミは、手際よくカットされ、目の前のプレートへ。外側はカリッと香ばしく焼き上げられ、美しい焼き色が食欲をそそります。ナイフを入れると、中心部は見事なロゼ色。一口頬張れば、まず炭火特有の芳醇な薫香が鼻腔を抜け、次いで赤身肉本来の濃厚な旨味と、ハラミならではの上質な脂の甘みが、口の中いっぱいに広がります。凝縮された肉汁が溢れ出し、噛みしめるほどに幸福感が増していく…まさにWAGYUMAFIAの真骨頂とも言える、見事な火入れと味わいでした。

食後の余韻を彩る、世界一のサイフォンコーヒー

極上のステーキ体験の興奮を静かに鎮め、完璧なフィナーレへと導くのが、井崎氏が淹れるコーヒーです。夜の部では、サイフォンを使用した抽出パフォーマンスも楽しめます。

ガラス器具の中で、お湯が上がり、コーヒー粉と混ざり合い、そしてゆっくりと抽出されていく…その一連の所作は、まるで科学実験のようでありながら、無駄がなく洗練されており、見ているだけでも引き込まれます。

サイフォンで丁寧に抽出されたコーヒーは、驚くほどクリアな口当たり。豆本来の持つ繊細なフレーバーと甘みが際立ち、香り高く、深い余韻を残します。濃厚なステーキの後味をすっきりとさせつつ、満足感をさらに高めてくれる、まさに至高の一杯でした。

進化し続ける、食と文化の実験場

古き良き喫茶店文化へのオマージュを根底に持ちながら、和牛とコーヒー、それぞれの分野のトップランナーが、その技術と情熱を惜しみなく注ぎ込む「妄想喫茶」。浜田氏のダイナミックな調理と、井崎氏の繊細な技がカウンター越しに繰り広げられる様は、ライブ感に溢れ、訪れる者を飽きさせません。

すでに30回以上の開催実績を重ね、常に進化を続けているというこのプロジェクト。噂では、今後WAGYUMAFIAの新店舗での開催も計画されているとか。食への探求心を満たしてくれる、この稀有なコラボレーションイベントから、今後も目が離せません。食に関心のある方ならば、ぜひ一度、この特別な空間を体験してみてはいかがでしょうか。次回の開催情報は、公式情報をチェックすることをおすすめします。