日本橋・三越前。華やかな大通りから一本奥まった静かな路地に、食通たちの心を捉えて離さない一軒のイタリアンレストランがひっそりと佇んでいる。2024年10月、美食家たちの期待を一身に背負い誕生した『ムレーナ』。特別な食体験を約束するお店として、話題を集めるようになった店だ。その評判通りの感動に出会えるのか、胸を高鳴らせながら扉を開ける。

迎えてくれるのは、温かくも品格を感じさせる空間。そして店の魂とも言える溝口真哉シェフだ。10代から料理の世界に身を投じ、日本国内の名店で修業を積んだのち、4年をかけてイタリア全土を巡り、各地の家庭に息づく郷土料理の真髄を自らの足で学んだ。さらに滋賀の名精肉店『サカエヤ』併設の伝説的なレストラン『セジール』で腕を磨き、「肉の匠」新保吉伸氏から絶大な信頼を得たというから、その料理にかける期待は尽きない。『サカエヤ』が誇る極上の肉と、イタリア各地の伝統料理が融合する――これこそが『ムレーナ』の哲学だ。

席に着くと、魅力的なワインから好みのボトルを選び、仲間との会話が弾む。コースはお任せ。シェフの感性と経験が凝縮された料理が、物語を紡ぐように次々と供される。

【序章：北イタリアの山の恵み – 温もりのスープ】

冷えた体を優しく温めるのは、アルト・アディジェ地方の伝統的なスープ。ジャガイモの深い甘み、自家製ザワークラウトの優しい酸味、燻製したスペック（生ハム）とチーズの豊かなコクが見事な調和を見せる。まるで北イタリアの冬景色を映したような懐かしい味わいに、早くもシェフの世界に引き込まれてしまう。

【色彩の饗宴：イタリア周遊 – 前菜の語らい】

続いて登場するのは、鮮やかに彩られた前菜の盛り合わせだ。イタリア各地の特色を表現した一皿は、まさに味覚の小旅行。モリーゼ州の刺激的な赤、リグーリア州のトリッパとオリーブの深い滋味、トスカーナ州の家庭料理を現代的に再構築した爽やかな一品。各料理の背後にある物語を、シェフが丁寧に語ってくれるのも魅力的だ。

【優しき抱擁：エミリア・ロマーニャの家庭料理 – 豚の牛乳煮込み】

メインへの期待が高まる中、「マイアーレ・アル・ラッテ」が供される。豚肉の旨味と牛乳のまろやかなコクが融合した優しい味わいは、派手さはないが深く心に残る一皿だ。

【クライマックス：肉の匠との対話 – 十勝若牛とキタノアカウシ】

そしてついに、サカエヤ厳選の二種類の牛肉が登場する。繊細で柔らかな「十勝若牛」と、しっかりとした赤身の旨味が際立つ「キタノあか牛」。品種や熟成、焼き方でこれほど異なる表情を見せる肉の奥深さに感嘆する。付け合わせの埼玉・狭山産の野菜も鮮烈な味わいで、肉料理を見事に引き立てる。シェフはオーブンを使わず、家庭でも再現可能な調理法にこだわっているという。料理人としての温かい哲学を感じさせるエピソードだ。

【大地の詩：ウンブリアの手打ちパスタ – ウンブリチェッリ】

肉の余韻が冷めない中で供される手打ちパスタは、ウンブリア州の「ウンブリチェッリ」。もっちりとした麺に絡む濃厚なマッシュルームのラグーソースは、シンプルながら深い味わいで、素材の魅力を最大限に引き出している。

【甘美なる終焉：セミフレッドとグラッパの魔法】

コースの締めは、軽やかな冷たいデザート「セミフレッド」。香ばしいアーモンドキャラメリゼとグラッパの芳醇な香りが絡み合い、五感を満たす完璧なフィナーレを迎える。

【心に刻まれた、温かな時間】
『ムレーナ』での夜は、ただ料理を味わうだけではない。溝口シェフの料理への真摯な姿勢、イタリア各地の食文化への深い理解、食材への情熱と愛情が、食事をさらに豊かなものにしてくれる。シェフの気さくな人柄やユーモアあふれるトークも相まって、まるで旧知の友人宅で最高のもてなしを受けているかのような、温かく満ち足りた時間となった。

極上の肉と郷土料理が見事に昇華された『ムレーナ』の料理。それは唯一無二の感動体験だった。日本橋の隠れ家で出会ったイタリア料理の新境地に、再訪を誓わずにはいられない夜となった。

Murena (ムレーナ)
0362252129
東京都中央区日本橋本町1-7-13 祥豊日本橋ビル 1F
▼お店の情報は下記のリンクから▼
https://teriyaki.me/articles/10323