「修行はバカ」発言から三年。
環境は大きく変わった
(3年前の”炎上”した発言)
鮨職人になるために「何年も修行するのはバカ」という発言が”炎上”したのは、もう三年ほど前のことだ。この三年間に。鮨を巡る環境はずいぶん変わったんじゃないだろうか。一人三万円以上もする鮨屋の予約が数年先まで埋まり、店の増え方もすさまじい。これは、銀行が「鮨屋ならお金を貸す」という、ファイナンスがうまくいっている証拠でもある。
鮨だけでなく、料理人を取り巻く環境も大きく変わっている。SNSが当たり前になり、料理人たちにも普及したことで、彼らの視野がどれほど広くなったか。Instagramでは自分の仕事をリアルタイムに発信し、逆に今まで知らなかった素材や技術、店や人をキャッチアップできる。Facebookを中心とするネットワーク上で、料理人同士、産地、メディア……いろんなつながりが生まれ、情報交換ができるようになったのは、飲食業界の大革命だ。
本書にも登場してくれた『照寿司』の渡邊貴義さんは、十年間、お客さんが全然来ない北九州市戸畑区にある街場の鮨屋で、仕入れた魚の写真をコツコツとFacebookにあげつづけた。
(『照寿司』 渡邊貴義さん/テリヤキスト堀江貴文さん)
そしてフーディに発見され、ついにバズったのだ。僕も渡邊さんやほかの料理人たちとのイベントや旅が次々と実現して、食に関する視野がどんどん広くなっている。
今回登場してもらった七人の職人たちは、三、四十代。鮨職人としては若手といっていい年代だ。ちょうど、前世代の、まさに何年も修行をしてやっと上にあがった先輩たちにしごかれまくった最後の世代である。最後というのは、もうすでに、無意味な「しごき」をすると、若者はすぐに辞めてしまって人が回らなくなるという現状にようやく気付いたから。
もちろん、今回の七人も、スタッフをいじめるなんてとんでもない。それどころか、例えば『はっこく』の取材中には「ちょっとだけ失礼します」と佐藤博之さんが席を外すと、彼が入っていった個室からハッピーバースデーの大合唱が聞こえてきた。その一人はデンマーク人で、発音が抜群にいいハッピーバースデーだったのも、あまりに象徴的。佐藤さんがこっちに戻ってきてからも、しばし彼らはケーキなりお菓子なりを食べながら談笑し、仲間の誕生日を祝っていたようだ。
成功しているお店は、どこも現場の雰囲気が抜群にいい。楽しくやったほうが仕事は確実にうまくいき、新しいアイデアも生まれる。これも人気店の人気店たる所以なのではないだろうか。
(『はっこく』 佐藤博之さん)
「夜明け前から毎日市場へ」というのも、既に神話。LINEを使えば、産地と仲買人と簡単に写真をやりとりして、それを送ってもらえばOK。「市場は人としゃべりに行くところ」と言う『鮓職人 秦野よしき』秦野芳樹さんの話に、なるほどなぁと思う。
(『鮓職人 秦野よしき』 秦野芳樹さん)
『鮨 りんだ』の河野勇太さんは、開店直後、睡眠時間がろくにとれない毎日を「当たり前」と思わずに、根本から改善した。深夜にLINEでやりとりして魚を選び、注文しておけば翌日トラックで届けてもらえるという。そして、あの大きなハコを元気一杯で盛り上げているわけだ。
(『鮨 りんだ』 河野勇太さん)
「当たり前」を鵜呑みにするのは恐ろしいこと。「親方にそう教わったから」「寝ないで市場に行くのが鮨屋だから」なんていうのは、あり得ない。
もうひとつ、印象的だったのが、『鮨 一幸』の工藤順也さんと、秦野さんの関連性。秦野さんは食べ歩きの末、工藤さんの考え方に魅了され、月に一度札幌に飛ぶという。しかも、自らを高ぶらせるため、ファーストクラスに乗って。もちろん、ひとりの客としてだ。そして、毎月カウンター越しにかわす言葉を吸収し、ついに秦野さんは「秦野よしき2・0」の境地にたどり着いたという。
(『鮨 一幸』 工藤順也さん)
つまり、秦野さんは、いわば”バーチャル弟子”なのだ。「鮨屋で何年も修行するのはバカ」発言の反論として、鮨職人の精神論みたいなものを振りかざしてくる人がいたけれど、もはやそんなことも必要ない。秦野さんが受け継いだ工藤さんのスピリッツは、麻布十番で新たな息吹となっているのだから。
東京は鮨バブル?
いや、盛り上がるのはこれからだ
では、鮨はこれからどこへ向かっていくのだろう。
最近「東京は鮨バブルですよね」と言われることが多いけれど、まだまだ全然、と言いたい。鮨屋が儲かるのは、はっきり言って、これからが本番だ。
今、”予約が取れない鮨屋”の多くは、ひとり三万円以上の超高級店だ。そんなお店がフル回転しても、まだまだ鮨屋は足りていない。新しい店ができて、人気が出るまでの期間もすごく短くなっているので、フーディたちは我先にと新店の予約を取る。フーディどころか、普通の女の子を食事に誘って、「『鮨さいとう』なら行きたい」などと言われることさえあるのだから……。
「ひと晩の食事に三万円もかけられない」という声もあるが、まあ、そういう人は、『すしざんまい』みたいなところでたらふく食べてほしい。十分においしいから大丈夫。市場などに行って自分で魚を買い、握ってみるのも楽しいと思う。
さて、なぜ鮨屋はまだまだ儲かるのか。
そのターゲットは完全にインバウンドだ。さっき「職人の視野が広がった」と書いたけれど、同じように世界中の人の視野も広がっている。
さらに、世界には既にインチキなSUSHIが知れ渡っているのも、好条件。というのも、僕もWAGYUMAFIAをやっていて、インチキWAGYUが世界に広まっていたことですごくやりやすかったのだ。いままでインチキしか知らなかった人に
「ホンモノの和牛はそんなもんじゃないよ!」
と、満を持して出す和牛。まったく知らないものを初めて食べてもらうよりも、インチキ→ホンモノというステップのほうが、より印象深く、「ホンモノ、すげー!」「これは誰かに教えたい」となる。和牛よりも世界に知れ渡っている鮨なら、なおさらだ。
今、世界中の富裕層やフーディに
「ホンモノの鮨を食べたい!」
という欲求が広まっている。彼らはひと晩ウン十万の夕食をとるために、わざわざ日本まで、なんてことは平気でする。しかも、より深いところまで行きたがる。だからこそ、北九州の戸畑なんて、多くの日本人が知らない土地にまで、『照寿司』の鮨を食べるために足を運ぶのだ。
(『照寿司』 渡邊貴義さん)
しかも、七人の職人と話してみて、やっぱり思ったけれど、彼らのクオリティの鮨は絶対に海外では作れない。だから、フーディは海を越えて足を運ぶしかない。これも、鮨の強みといえるだろう。
つまり、『照寿司』でいうと、ターゲットは六万人に満たない北九州市戸畑区民から七十億人に広がっているということ。これは、どの店にも言えることだし、これから作るすべての店に当てはまるチャンスといえる。
「英語が喋れないから」「外国人はマナーが」なんて言うのは、もう勝機をのがしまくっている。鮨屋で使う英語なんて知れているし、パフォーマンスで乗り切ればいい。『照寿司』の渡邊さんは、英語がはなせるようになる気配もないけれど、その眼力とアクション、そして鮨だけで世界と渡り合っている。
「外国人客はマナーが悪い」というのも、最近はほとんど聞かない。向こうだって、大金を払って食べに来ているのだから、むしろ日本人よりもリサーチをしていたり、その場を楽しむのになにが必要かを分かっている。ドタキャンをされたという話も聞かないが、もし不安なら富裕層向けの予約サイトを使ってみたらいい。
対談の中で『はっこく』の佐藤さんが言ってるように、外国人客の「これから東京で鮨を食べるんだ!」というワクワクのオーラは、職人を張り切らせ、確かにその場を明るくしてくれるのがある。
これからは足もとではなく、七十億のほうを見て仕事をするべきだ。
今、鮨屋をやっている人、やってみたいと思っている人。確かに職人になるにはいろんなものが必要だけれど、今は、修行にしても、資金調達にしても、たくさんのやり方があって、これからもどんどん新しいスタイルが生まれる。
この本では、ちょうど旧世代の呪縛から脱却し、自分のやり方で店を繁盛させている七人の鮨職人の今までと、今と、これからを僕自身が聞いてきた。聞いてみたら、鮨がますます旨くなった、ということもつけ加えておく。
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